「NISA」と「iDeCo」の比較に意味はない?

2024年1月からついに始まった「新NISA(ニーサ)」。各メディアにも大きく取り上げられ、その注目度が上がってきています。

 

従来よりも使い勝手が良くなったことから、新たにNISA口座を作ってみようと考えている人も多いはず。そんな中でファイナンシャルプランナー(FP)である私は、しばしば次のような質問を受けます。

 

「NISAとiDeCo(イデコ)はどっちがいいですか?」

 

特に資産運用初心者からこういった質問をされることが多く、ネット上でも同じような疑問や記事が散見されますが、実はこれは非常に答えづらい質問です。いえ、より正確に表現するのであれば、「この質問自体に意味がない」とさえ言えるかも知れません

 

なぜNISAとiDeCoの比較に意味がないのか。今回のコラムでは、「“お金の相談”の専門家」であるFPがコンサルタントの立場からこの疑問を解説します。


使い勝手が良くなった「新NISA」

まず、NISAのおさらいをしておきましょう。

 

NISAとは「少額投資非課税制度」のことを指し、簡単に言えば「投資をして儲かった分が非課税になる」という仕組みです。

 

本来、投資をして得た利益は所得税の対象となり約20%が税金として徴収されますが、NISA口座で売買したものであれば利益に対して課税されません。通常であれば100万円の利益のうち約80万円しか手元に残らないものが、NISAの仕組みを使えば丸々100万円を受け取ることができるのです。

 

新NISAが「使い勝手が良くなった」と言われる理由は大きく3つあります。簡単にまとめてみましょう。

  • 制度がシンプルになった(つみたてNISAと一般NISAが一本化)
  • 期限の上限が撤廃された(従来は5年間の枠を繰り返し使用)
  • 投資枠の上限が上がった(年額:360万円/総額:1,800万円)

こうした改定により、一般的な家庭であれば投資枠の上限や期限にあまりとらわれずに資産運用を行うことが可能となりました。特に期限が撤廃されたことで長期的な展望を持つことができるようになったのは、資産運用初心者にとっても大きなメリットだと思います。

 

反対にデメリットとして考えられるのは、非課税になるのはあくまでも利益に関してだけということ。平たく言えばこれは「儲からなければなんの意味もない」ということになるでしょう。

 

その意味でもNISAを活用するのであれば、最低限の投資知識を身につける必要があると言えます。


「iDeCo」の仕組みをおさらい

一方のiDeCoとは、「個人型確定拠出年金」の愛称となります。

 

iDeCoに関する詳しい説明は他のコラムに譲りますが、大きなメリットとされるのが次の二点です。

  • 掛金が全額所得控除となる
  • 運用の利益は非課税扱いとなる

「所得控除」とは税金を計算する元となる金額が少なくなることを意味します。例えば、iDeCoに毎月1万円、一年で12万円の掛金を拠出している人であれば、年間36,000円程度の節税になるでしょう(所得税率20%/住民税10%で計算)。

 

誤解されやすいのですが、掛金の金額がそのまま税金から引かれる(=税額控除)わけではないので、その点は注意が必要です。

 

iDeCoの場合もNISAと同じく利益分に関しては非課税となりますが、その代わり掛金を受け取る時にはその金額が所得税の対象となります。元々は自分の財布から出した掛金に課税されるのは少し理不尽な感じもしますが、受け取るお金には退職所得控除あるいは公的年金等控除が適用されますので、それほど大きな負担にはならないでしょう。

 

iDeCoのデメリットとしては、原則として60才まで引き出せない点が挙げられます。毎月の掛金の変更や停止は可能ですが、一度拠出したお金は60才になるまで引き出すことはできません。


「資産運用の三特性」で考えてみよう

さて、それではなぜ両者の比較に意味がないのでしょうか? ポイントはiDeCoのデメリットにあります。

 

60才までは掛金を引き出せないiDeCo。その特徴はiDeCoという仕組みの成り立ちを如実に物語っています。そう、iDeCoとは「自力で老後資金を形成するための仕組み」であり、端的に言えばそれ以外の目的にはなんの役にも立たないのです。

 

それに対し、NISAはなにも老後資金の形成だけを目的としたものではありません。確かに安定した投資には長期的な運用が大切ですが、それでもiDeCoに比べれば遥かに短いスパンで資産運用を考えることができます。

 

両者を「資産運用の三特性」に当てはめて考えてみましょう。

 

資産運用の三特性とは

  • 収益性(どれだけ利益が見込めるか)
  • 安全性(どれだけ元本が保証されているか)
  • 流動性(どれだけ現金化しやすいか)

を指し、この三つは並び立たないものとされています。

 

簡単に言えば、「メチャクチャ儲かって(収益性)、元本が保証され(安全性)、いつでも現金化できる(流動性)金融商品はこの世に存在しない」ということです。


「iDeCo」は流動性を犠牲にした仕組み

iDeCoをこの三特性に当てはめると、やはり一際目を引くのが「流動性の低さ」です。例えば、30才で掛金の拠出を始めたとしたら30年もの間そのお金が現金化できないことになります。

 

一方で、大きな節税効果はiDeCoの収益性や安全性を高める役割を担っています長期間にわかって少しずつ積み立てていく「ドルコスト平均法」が採用されていることも、その安全性に貢献していると言えるでしょう。

 

NISAの場合、流動性を損なうような仕組みにはなっていません。証券を売却すればいつでも現金化は可能です。

 

反面、収益性や安全性は担保されていないのは事実。もちろんどんな銘柄を選ぶかにもよりますが、資産が減少する可能性も十分にあるのです。

 

先ほども触れたように、そもそもNISAとは「儲からなければなんの意味もない仕組み」。利益が非課税という部分だけをみてきちんとした準備もせずに資産運用を始めたのでは、その恩恵を受けることは難しいでしょう。


両者の比較に意味がない理由

「iDeCo」と「NISA」。

 

この両者の性質の違いは、その制度が作られた目的の違いを反映しています。繰り返しになりますが、iDeCoとは「自力で老後資金を形成するための仕組み」であり、一方のNISAは利益が非課税という甘い餌を撒くことで「日本社会に根強く残る“現金至上主義”からの脱却を目指すシステム」と言えるでしょう。

 

もともとゴールとして目指しているものが違う制度ですから、この両者を比較することに意味はありません。あなたがもしコツコツと老後資金を貯めたいのであればiDeCoを活用するべきですし、ある程度の余剰資金があって利殖性資金の割合を増やしていきたいのならば、迷わずNISAを採用するべきなのです。

 

それでもこの両者が比較の対象になってしまうのは、主に証券を扱うという“見た目”が似ているからだと思われます。特にこれまで資産運用に縁のなかった人には区別がつきにくいのかもしれません。

 

しかし、それぞれの 目的の違いが理解できれば「NISAとiDeCoはどっちがいいですか?」という質問に違和感を覚えるはずです。敢えて例えるとするならば、これは「木綿豆腐と杏仁豆腐、どっちか好きですか?」と聞かれているようなもの。同じ“豆腐”という名前でも両者はまったく違うものですから、やはりこれは適切な質問とは言えません。

 

「“お金の相談”の専門家」FPとしては、多くの人がNISAとiDeCoを混同している現状に危機感すら覚えます。この事実は投資に対していかに目的意識を持っていない人が多いかの証左でもあるからです。

 

資産運用を始めるにあたって一番大切なことは“目的”のはず。ゴールの設定によって、投資に対する金額や期間、なによりも手段が決まってきます。

 

節税を筆頭とした甘い言葉に引き寄せられて闇雲に手段に飛びつくのではなく、まず自分が投資によって目指すべき目的地をしっかりと考えるようにしましょう


(2024/01/24 文責:佐野純一)

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